私は、アナタ…になりたいです…。
後ろにいるのは…
店に入ってきた僕の顔を見て、女将さんは一言「酷い顔…」と罵った。


「常連とは言えあんまりですよ」


呟き、いつものカウンター席へと座る。

女将さんは遠慮もなく、「だって本当だもん」と言い返してきて、オシボリとお冷やを持って来た。


「あ…女将さん、僕ビールで」


要望を伝えると、「今日は出さないよ」と拒否された。


「この間と言い、今日と言い、悠ちゃん顔つきが悪過ぎる。そんな顔してる人に出すお酒はウチには無いの!」


女将さんの一方的な言い分に、大将は呆れる様な表情を浮かべている。

けれど、こっちの様子を伺って何の反論もしなかった。


ムクれる自分の目の前に突き出しを置き、女将さんは隣の椅子に腰かける。
カウンターテーブルに肘を置き、呆れる様な顔をして聞いてきた。


「…今日はどうして一人なの?さっちゃんは?」


顔つきが酷いのは喧嘩でもしたから?…と問われた。


「いいえ、喧嘩なんかしてないですよ」


「してない」どころか、全く話もしていない。

朝の出勤時に挨拶を交わすのみ。それ以外は、メールのやり取りすらも暫くご無沙汰のままだった。




河佐咲知はあの公園での昼食以来、何となく僕を避けるようになった。

受付を通り過ぎる時も軽く一礼するのみ。
先輩や同僚が僕に話しかけだしたら直ぐにその場を離れ、別の仕事をやり始める。

いつかみたいな泣き顔も見せない。
固く唇を閉じたまま、機械的に動いているだけだった。

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