私は、アナタ…になりたいです…。
憧れの人の憧れ?
僕の目の前には、まるでお人形のような子が座っていた。
何処を見ていいのか分からない様子で、キョロキョロと辺りを気にしている。
よほど周囲の目が気になるのか、両腕をテーブルの下で絡ませ、どんどん身体を縮こまらせていく。



「河佐さん、そんなに緊張しなくてもいいよ」


不用意に発した僕の一言は、彼女の図星をついたらしい。ビクッと身体を揺らして、小さな声で「はい…」と呟きうな垂れた。




河佐さんこと、河佐咲知さんから連絡が来たのは、午後8時を回った頃だった。
こっちはやりかけの仕事をしていたから良かったけど、彼女の部署である受付はとっくに業務が終わっていただろうに、そんな時間まで何をしていたのかと尋ねると……


「メ…メールするべきかどうか、迷ってました……」


朝一番に忍ばせたメールアドレスを書いた紙を、彼女はずっとポケットに入れたまま悩んでいたそうだ。


「最初は連絡せずに帰ろうと思ったんです。きっと、何かの間違いだろうと思って。でも、ぶつかったお詫びをするのは自分の方だと思い返して、それならやっぱり連絡すべきだと思って……」


こんなに遅くなってすみません……と、ますます小さな肩を竦めていく。
相手が僕じゃなかったら、きっと、ここまでオドオドしたりしない筈だ。


「連絡してきてくれて嬉しかったよ」


心からそう話すと、「えっ⁉︎ 」と目を丸くした。
円らな瞳にはコンタクトを入れていると、昨日初めて知った。

5年前の初対面の時には、そんなこと気づきもしなかったけど……


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