私は、アナタ…になりたいです…。
きゅっ…と唇を噛みしめる彼女を見るのは5年ぶりだった。
いきなり手を掴んだ僕を叱ることもできずにいて、うっすらと頬を紅く染めていく。

心を惑わされるには十分過ぎるくらいの効果がそれにはあり、軽い動悸が伴った。


憧れ続けてきた河佐咲知と付き合えるようになって、有頂天になっていたのは僕の方だったと思う。
子供の頃のように、甘酸っぱい思いが全身を駆け巡った。それを隠すように勢いよく声を出した。


「じゃあまた。午後から会議があるから先に行くよ」


立ち上がる僕に戸惑いながら笑みを見せる。
これが作り笑いでなく、本物になるようにしたい。
僕の目に映る彼女が、どんなに魅力的かを伝えたい。


(そして、彼女にもっと自信を持ってもらうんだ…)



…勝手にそう思いながらその場を去った。

後に残った彼女がどんな顔をしていたかなんて、その時の僕は何も気に留めずにいたーーー。



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