私は、アナタ…になりたいです…。
走り去る田所さんの背中を見ながら、ぎゅっと右手を握りしめた。

胸の鼓動は速打ちのまま、気持ちだけが急降下していく。

簡単に手に触れてしまえる人とは違って、こっちは触れられることにかなり神経質になっていた。


小指と言えど、男性と触れ合ったのは、短大に通っていた時以来だった。

ざっと数えて7年くらい前の話。あの日を最後に、2度と人を好きにならない…と決めた。



(それなのに……)



こうもあっさり、田所さんは私の心に住もうとしている。

憧れるだけで良かったのに、現実化しようとしている。

私にしか見せない顔があったり、絵文字があったり、ずっと見てたんだ…と分かる様な言葉を言ったりする。

視線が痛くて逃げ出した私を追いかけて来たりして、余計な優しや気遣いをくれる。


そんなことされると直ぐに自惚れそうになる自分が嫌い。

あんな素敵な人が自分に憧れているとは思いたくもないし、信じたくもない。

何もかも夢でいい。
苦しい思いを知って、傷つくだけなら何もいらない……。



……ぽとん。

落ちた滴を歪んだ視界の中で見つけた。

じわじわと制服のスカートの生地に吸い込まれていく水滴は、一粒じゃなかった。


惨めな気分に浸りそうな時に訪れる場所。

この公園は私にとって、そういう場所だったんだ……。



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