私は、アナタ…になりたいです…。
お酒に酔ってるんだろう…と思いながら田所さんを見ていた。
田所さんの目は真剣で、とても嘘や冗談を言ってる様には思えなかった。


「憧れから始まった僕だけど…今はもっと河佐さんのことをよく知りたいと思っています。そのチャンスを、与え続けてもらっていいですか?」


胸の震える音を感じながら、髪を撫で始める彼のことを見つめた。
声を出そうにも言葉が思いつかず、真っ白で何も考えられない頭のまま頷いた。


「良かった…」


芯からホッとした様な笑顔を見せられた。
さっき店の中で見たリラックスした笑顔とはまた違う、花の咲く様なスマイルだった。




駅まで送られた後、1人で帰れます…と言い見送りを断った。


電車に揺られながら、ほぅ…と深い息を吐く。


頭の中は幾らか落ち着きを取り戻し、さっき彼が言ってた言葉を思い出す余裕が出てきた。


電車のポールに身を任せるようにして目を閉じると……


ーー浮かんでくるのは、華やかな王子スタイルの笑顔じゃなくて、切なそうで物憂げな田所さんの顔ーーー



(あんな華やかな笑顔の下に、こんな一面を隠し持ってたのか…)


ぎゅっと胸が押し潰される様な思いがして苦しくなった。

憧れてた人の新しい顔を知り、自分も一層彼のことを知りたい…と思うようになっていた…。



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