私は、アナタ…になりたいです…。
「…僕、何かした?」


しらばくれて聞いてみた。
ギクリとする表情を見せた彼女が、すぐに目線を逸らす。

「はい」とも言えない質問をしてしまった。
困ったように俯く姿を見ながら、少しだけ自分を愚かしく思った。



「今日ね、課長から嫌味を言われたんだよ…」


違う方向から話を進めてみようと思った。
昼間の部署での会話を聞かせると、彼女はぽっかりと口を開けたまま目をパチパチと瞬かせていた。


「皆はいかにも僕が女性を選り好みしているように思ってるけど、実際は違うんだ。フられるのはいつも自分の方で、フられるのも大抵同じ理由。『貴方みたいな素敵な人が、私を本気で好きになる訳がない…』って言うんだ」


後ろめたそうな顔をして彼女が俯いた。
図星を刺した様で申し訳なかったけれど、彼女にだけは自分の前から去っていって欲しくなかった。


「河佐さんももしかしたら他の人と同じように、僕を信じられなくなることもあるかもしれないけど……信じて欲しいと思う。僕は本当に、君が好きだということを……」


先延ばしにしようと思っていた言葉を今ここで言ったのは、一つの賭けをしてみようと思ったからだ。


河佐咲知本人の口から言わせたかった。
自分のことをどんなふうに思っているか、聞いてみたかった。


「河佐さんが僕のことをどう思っているか聞かせてもらってもいいかな?僕は何を聞いても驚かないし、怒ったりもしない。君と付き合いだしたばかりの今、お互いの気持ちを知るところから始めたいと思う」

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