強引上司とオタク女子

ミーハー心も手伝って、思わずまじまじと見つめてしまったけれど、ふっと我に返る。

いけないいけない。
覗き見してるなんてバレたら大変。
ここは空気を読んで、気付かれないうちにこの場を去ろう。


「コホン」


気を取り直そうとして思わず出してしまった咳払い。
あ、と思った時には遅かった。


「か、川野さ……」


梨本さんが私に気づいた。驚きで目を見開いている。

私は恥ずかしいよ。
こんな地面に這いつくばった格好じゃあ言い訳の一つも出来やしない。

そして振り向いた男の顔は、やっぱり私が知ってる顔だった。


「……く、国島さん」


梨本さんより少しだけ早い九月にウチの部署に移ってきたばかりで、現在同じチームのリーダーをしている国島義昭(くにじま よしあき)さん。

私より二つ歳上の二十八歳で、やり手と評判。

鼻筋が通った彫りの深い顔に、さっぱりとした黒のビジネスショートという髪型がバランスをとっているのか、全体的に整って見える。一部女子の間ではイケメンだという噂も立ってる。

数年、仙台支社にいた彼が異動願いを出したのをこれ幸いと引きぬいた、と豪語していたのは部長だったか。


そんな彼が、驚きと気まずさの入り混じった顔で私を見る。


「川野? ちょ、待て。これは」

「い、いえいえいえ。すみません、私何も見てません。ではそのさようなら!」

「おい待てって」


いやいや、無理無理。
勘弁してよ、気まずーい!

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