強引上司とオタク女子


「……噂になったら困るんです」

ちらり、と彼女が廊下の方を向いた。

そういえば、新しい男ができたとか言ってたっけ。
当然社内恋愛ってことだよね。


「何にも知らないんだから何も話さないよ。簡単にいえば興味がないの。だから心配しないで」


そう言ったら、彼女は少しだけ傷ついたような顔をした。


「そうですか」


そして静かに自席に戻っていく。

なんだなんだ。
心配するなって言ってるのになんでそんな顔をするのよ。

まあいいや。
マニュアル直しも定時までには終わりそうだし、今日は残業なしで明日美と会えるぞー。






【十八時には出れそう】

【じゃあ、外でご飯食べよう。八重ちゃんの会社の近くまで行くね】


そんなやり取りをして、就業時間を迎える。
面倒くさいことを言う国島さんは、三時頃外出してから戻ってきてないし、チャンスチャンス。


「お先に失礼します!」

「はい、お疲れー」


ほら。皆快く送り出してくれる。

私には期待してない。

いてもいなくても困らないし、代わりもきく。
それが川野八重という人間の立ち位置なわけ。


< 33 / 87 >

この作品をシェア

pagetop