吸血鬼、頑張ります。



真一文字に綱は張られた。


しかし、この特殊な綱は、軋みもしなければ音すらたたない。


熱風が会場に吹き荒れた。

スタジアム内の空間が、オーロラの如く色を幾つも変える。


魔導が安定するまで、会場には混沌とした空気が溢れる。


観客は、それをも楽しんで、お互いのチームを応援していた。



真一文字の綱は、紅白のどちらにも引かれる事もなく、中心部は張っている状態から動かない。


やがて魔導の嵐が徐々に収まってきた。



するとどうだろう。

お互いの組の一部分だけが、赤組は赤く。
白組は白く。
光だした。


『どうやら魔導が定まったようです。
赤組は高等部の三年生のクラス。
白組は中等部の二年生のクラスの様です』


会場からは大きな拍手が起きる。


『魔導が白組に作用を始めております。
白組速い!赤組頑張ってください!』



そう言う事らしい。


これだけの人数が綱を引く以上、あらかじめ各クラスは其々作用させる魔導を決めて置く。

それはクラスの機密事項のため、同じ組でも話は出来ない。


なので当日まで、何処のクラスが一番有効な魔導を使えるかは解らない。

仮に、赤組のクラスが、白組全員に対して、「足が滑るようにする」と、
魔法を掛けたと仮定しよう。


この場合、白組全員に魔導を掛けなければならなくなり、効率が非常に悪い。


まして、赤組の何処かのクラスが「赤組全員の足が滑らない」と、魔法をかけた場合、
魔導は必然的に近い場所から作用していく性質があるので、
白組の滑るようにすると言う魔導が赤組に伝わる前に、滑らないと言う魔導が先に掛かる。

大衆や大勢に対して、作用にばらつきが出る魔導は、一度だけしか効果を示さず、
単純な魔導の方が掛かりやすくなる。


なので白組が放った
「足が滑るようにする」
と言う魔導は、キャンセルされてしまう。


即ち、
仲間に対して有効な魔導が、必然的に向いているのだった。




今の綱引きに話を戻そう。
白組が作用させた魔導は、
「白組全員が今の体重の10倍になる」

と言う、単純な魔導である。


単純故に強力に素早く作用していた。


しかも中等部が放った魔導なので、白組に速く、満遍なく浸透した。



綱の中央の目印は、白組に向けて引かれ出した。

赤組は、高等部三年生の魔導が作用しているため、味方でも中々浸透しないでいた。


ズルズルと、白組に引っ張られる赤組。

アンカーの香織も必死で止めようとするが、人数が人数なので、引っ張られていく。



「あっ!も、もうだめかも!!」

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