吸血鬼、頑張ります。



朝イチの綱引きは、ある意味壮観であった。


競技会場はスタジアム級であるため、全員がトラックとフィールドを斜めに区切る様に並ぶ。


観客席には家族や関係者、OBや財政界の来賓がひしめくなか、
綱引きが始まろうとしていた。



綱の中心から、手前は初等部、次に中等部、最後尾の高等部三年生までが並ぶ。


綱を引きはじめてから、綱引きに適した魔導や魔法を使う。


凄まじい魔導の嵐が吹き荒れ、会場は一気に混沌の空気に満ちる。


それが毎年変わらない光景だった。


よく、魔導や魔法が互いに干渉を起こすなどと言われるが、基本的にそんな事は無い。


発生させた時に、エネルギーは飽和するが、その中で最も強い魔法によりエネルギーは駆逐されて、一番強い魔法が、より強力に作用されるだけである。


なので実際は一つの有効な魔法と、綱を引く人の力で勝敗は決するのである。


開会式が終わり、スタジアムの地下からせり上がるように長く意外にも軽い綱が一本姿を現した。
一体どうやって地下に収納されていたのかが気になる所ではあるが、
ひとまず、その事には触れず、
紅白の生徒は準備運動を終えて、規定通りの位置に着いていく。


香織も、皆に促されるように最後尾のアンカーの位置に着いた。


香織は華奢である。

体育が得意ではあるが、綱引きなどの力を使う競技は、やったこともなかった。


今も、体型は変わらず華奢なまま。

しかし、アマゾネスが如きパワーを発揮してはいた。



「ち、ちょっと・・・アンカーなんて無理だよ〜。男子と交換してよ」



クラスメートに話すが、
「大丈夫だって!私達に任せておいてよ」

と、香織の意見は空しくもクラスメートには届かない。


初等部の沙織とひよりは何が何だか分からないまでも、もう、こんな規格外の運動会が楽しくて仕方がない。



3人は同じ赤組である。
紅白の紅である。

敵対してこそ居ないが、初等部と高等部で、立場は全く違っていた。



『では、全校紅白綱引き対決を行います。
三本勝負で、先に2本の先取した組の勝ちです。
尚、ワイヤーはどんな魔導を注入しても、決して切れる事はありません。
皆さんの日頃の魔導の成果を、存分に発揮して、栄光を掴んで下さい』

『では、用意!』



火薬ピストルが鳴り、体育祭開催の花火が上がる。



ここに、度肝を抜く熾烈な体育祭の最初の種目が始まった。


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