キミに出会うまで
高揚
週明けの月曜日、マスク姿の森さんが出勤してきた。


「おはよ」


と言って、デスクにコーヒーショップの紙袋を置いていった。


「えっ、なんですかこれ」


「やるよ」


「・・・いただきます」



そんな私たちのやり取りを見ていた明日香先輩とひとみちゃんに、引きずられるように給湯室へ連れていかれ、尋問が始まった。


「金曜、どうだった?」


「どうって、お見舞いに行っただけですけど」


「えーっ、優花先輩、なんにもなかったんですか?」


「なんにもって、あるわけないじゃん」


「おっかしいなー、何か進展あると思ったのに」


「明日香先輩、森さんと私をくっつけようとしてます?」


「そうだけど?」


「そうですよ優花先輩、お似合いですもん」


「私が言うのもなんだけど、過去のツラい不倫から卒業して、新しい恋をしてほしいんだって」



そっか、二人は大阪の会議に出席してないから、てっちゃんとのこと知らないんだっけ。


森さんと元カノのことも、言うわけにはいかないし。



「お気持ちだけいただいときます、私はもう恋愛はいいです」



一人、逃げるようにデスクに戻ったら、さっき森さんからもらった紙袋が目に入った。


そっと開いてみると、あったかいコーヒーと一緒に、映画のチケットが入っていた。


驚いて思わず森さんを見ると、スマホがふるえた。


『映画、今日までだから、19時現地集合』


『どういうつもりですか?』


『この前のお礼』


たしか、私が森さんに『あの映画観たいんだけど、一人で行くのはちょっとなー』ってしゃべった気がする。


そんなこと、覚えてなくていいのに。


『検討します』


迷って、そう返信した。



ふたりっきりだと、また勘違いしちゃいそうになるかもしれない。


だけど、映画は観たい。


ただの同僚と思えばいいか。



その日は一日、仕事に身が入らなかった。

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