気になるパラドクス
この人は、大きいくせに……どうして気配もなく後ろに立てるんだろう?

「村居……さん?」

あ。えーと。

黒埼さんは黒のキャップに、いつものミリタリージャケット。それからジーンズにスニーカー姿で、肩に段ボールを抱えている。

「オーナー……お知り合い、ですか」

店員さんは固まっている私と、黒埼さんを交互に見ていた。

「ああ。まぁ……例の企画の会社の人だけど」

「そうなんですか。あ。在庫下さい。今、フロップの在庫の話をしていたところなんです」

彼女は楽しそうに黒埼さんから段ボールを受け取り、その場で開けてくれた。

「在庫管理くらいしっかりやれよー」

黒埼さんはキャップを被り直し、レジの方へ向かっていく。

それをぼんやり見送ると、ちょっと拗ねたような顔をしていた店員さんが、フロップの可愛いイラストの入ったダークブルーのスマホカバーを取り出してくれた。

「村居さん。フロップ好きですね」

「え、えーと。はい」

微かに視界の隅で、黒埼さんが吹き出したような気もする。

……もう、いいや。

「好きです。ダメですか」

「いえ。村居さんフロップのお得意様ですし」

慌てて両手を振る彼女に、しょんぼりとする。

……お得意様かぁ。

「真理。接客代われ」

黒埼さんがスタスタ戻ってきて、店員さんが離れていった。

「……悪いな。あいつはいつもひと言余計なんだ」

「黒埼さんも人の事は言えないです」

「まぁな」

小さく笑われ、それから手に持っていたフロップのカバーが取り上げられ、黒埼さんは段ボールの前にしゃがんだ。

「お前はこっちのイメージじゃないな。こっちかこっちだ」

パステルピンクとエメラルドグリーンのカバーを差し出され、私もそれをしゃがんで受け取ってから微笑む。


うん。可愛い。ピンクかなー。
でも35歳でピンクはダメかな。でもピンクの方が好きだしな。

ニコニコしていたら、黒埼さんが頬杖をつきながら私を見ていた。

「な、なんでしょう」

「そっちだな」

言われて、エメラルドグリーンのカバーを取り上げられた。

……見透かされてるー!
< 38 / 133 >

この作品をシェア

pagetop