気になるパラドクス
黒埼さんは段ボールを持ち上げ、立ち上がりながら私を見下ろす。

「薄々そうかな……とは思っていたが、お前ってうちの常連?」

「常連で悪いですか?」

私も立ち上がって、黒埼さんと視線を合わせる。

「いや。嬉しいかな。新作紹介しようか?」

段ボールを店員さんに渡して、黒埼さんが振り返った。

「ついでにこれは妹の真理」

指を差された店員さんがギョッとして、私も瞬きして彼女を見る。

そして、お互いに愛想笑いをして、また黒埼さんをに困った顔をした。

「黒埼さん。いきなり妹さん紹介されても困るんですけど」

「ん? 別に気にすることはないだろう。それより、俺は他に気にかかっている事があるんだが」

ギクリとして、ちょっと真顔な黒埼さんから背を向ける。
なんとなーく、言われそうな事に心当たりがありすぎるから、まずいような気も……。

だって黒埼さん、前の時も詰めてきたし。

「私は友達と来てますから。どうぞお仕事続けてください」

カバーをレジに置くと、真理さんもなんとなく困った表情で私と黒埼さんとを交互に見る。

「すみません。うちの兄はわがままなので……」

「いえ。かえってすみません……」

言いかけたら、のしっと頭に何かが寄りかかってきた。

とっさにレジカウンターに両手をついて、渋面をつくる。

「……黒埼さん。いい加減、私でも怒ります」

「お前はいつも怒ってんだろうが。 いい加減折れろ」

「どーして私が折れなくちゃいけないんですか。だいたい……」

言いかけたら、頭上から遮られた。

「そろそろ俺の言葉もまともに受け止めろって言ってるだけだ」

真正面に見えていた真理さんの目が丸くなって、それからいきなり納得の表情になる。

「あー……大変なんだ、村居さん。イライラの原因はあなたかぁ」

いや。大変なのは確かだけど、真理さんは何かいろんな意味で言っている気がするんだな。

それにしても……黒埼さんの言葉をまともにって言われても。

「先日、からかっているわけではないと、それはわかりましたと申し上げましたし」

「からかっていないのが、ただわかっただけな気がする」

「とにかく重いんですけど!」

かろうじてお財布からカバーの支払いを済ませてポイントカードにポイントをつけてもらうと、押し潰されそうになった苦情を言う。

「お前は逃げるからなぁ」

「友達置いて逃げません!」

叫んだら、重みが消えた。
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