気になるパラドクス

5

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綺麗に晴天の土曜日。

この間、黒埼さんに『飯にしよう』と言われてから、戦々恐々と週末まで過ごした。

まわりの部下からは何となく怖がられ、磯村くんからは苦笑されつつ、そして終いには、迎えに来た黒埼さんに玄関先で変な顔をされる始末。

「お、おかしい?」

「うん。どこの参観日に行くかーちゃんかと思う」

かーちゃんて言われた!
確かに、グレーのスーツにブラウスは年齢的に微妙?
でも、きちんとした格好を目指した結果なんだけど……。

「そんな形式ばったもんじゃないから、落ち着けよ。ちゃんとしたのは、お前の親も交えてだろ?」

「……ああ、やっぱりそこまですでに考えてるの」

「うん。狙ったら逃がさないように考えてるんだ」

そんな物騒な言葉を、とっても無邪気に清々しく言われても笑うしかないんだけどな。

「とりあえず、着替えるから待って」

ドアを閉めようとしたら、ガッツリ足を挟み込まれた。

それを無言で見下ろすと、頭上からちょっとだけ不気味な『ふっふっふっ』と言う笑い声。

「部屋で待っててもいいよな?」

「……私の部屋、ワンルームなんだよね?」

「知ってる。この間カーテン越しにベッド見えてたから。この寒空に、彼氏を部屋の外に待たすつもりか?」

あー……それはダメかな?

「寒い感じ?」

ドアを開いて黒埼さんを通すと、頷く彼を見上げる。

やっぱり黒埼さんは背が高いなぁ。
そう思って、とりあえずドアを閉めたら、せっかくまとめた髪をうきうきほどかれた。

今日は苦労して、天パを押さえてまとめていたのに……。

「……今日は下ろしたい気分なの?」

「そう。そして、今日はこれをつけたい気分なの」

スッと真っ白な幅広のカチューシャをつけられて、目を真ん丸にする。
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