気になるパラドクス
「こういうのは……」

「可愛い可愛い。フロッグすてっぷのデザイナー馬鹿にするなよ?」

……可愛い子が似合うと思う。と言う言葉は遮られた。

しかも、これでなおかつ『私には似合わない』なんて言おうものなら、黒埼さんのセンスを馬鹿にすることになり、その黒埼さんのデザインを好きな私のセンスも馬鹿にするわけで……。

結果としては堂々巡りになるよねー?

ジャケットを脱ぎながら拗ねたように横目で彼を見る。

それからカーテンを開けて奥の部屋のクローゼットにしまって、ドレッサーの鏡を覗き込んだ。

シンプルな布製のカチューシャは女の子らしい感じになる。まぁ、下ろした髪にはちょうどいいのかも。
そうすると化粧がキツイ感じに見えるから……ちょっと変えるかな。

実際、コレを選んだ黒埼さんのセンスは間違いないと言うことになるんだけど、でも、それを言うのはまるで“私は可愛いいでしょ?”って感じになる気もするから絶対に言わない。

「黒埼さんて、口うまいよね」

「お前はきっと口下手だな」

カーテンをちょこっと開けて、覗いている黒埼さんを鏡越しに睨んだ。

「勝手に覗かない」

「了解。見るから」

……言えばいいとは言ってない。

溜め息をつくと、クローゼットを開けて眉を寄せた。さて、どうするべきか。

「ここからだとクローゼットが見えない。入ってもいいかー?」

「だめに決まってるでしょ」

横から声をかけられて、キッと振り返る。

「だめに決まってるのかぁ」

カーテンの向こうで、しょんぼりとしゃがみ込んでいる黒埼さんを見下ろした。

ヤバイ。でっかい子犬がいる。

本当の子犬ならとっても可愛いんだけど、黒埼さんの体格からすると獰猛な犬に見える。それなのに表情が“しょぼんマーク”に見えてしまう!

どうしよう、私の頭はどうかしちゃったの?

「……聞いていいか、美紅」

「なぁに?」

「なんでお前は、俺の顔見て真っ赤になって頭抱えてんの?」

うーん。どうしてだろうねー?
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