ナニカ 〜生んで、逃げて、殺される物語〜
琴美が指を差して、さっきからずっと懐中電灯の光を当てている場所に、敬太が泳いでいた。
岸から7、8メートル離れた沖で、敬太はザブンと水中に潜っていき、しばらくして浮き上がって呼吸を整え、また潜るのを繰り返している。
敬太はふたりを探しているんだ……。
いや、ふたりというより、真斗を助けたいと必死なのかも。
何度も繰り返して潜り続ける敬太の姿を、私は呆然と見つめていた。
頭の中で、肝試し中に真斗から聞いた、ふたりの友情物語を思い出しながら……。
それからすぐに辺りは騒がしくなった。
消防車やパトカーの音が鳴り響き、暗かった湖畔は明るいライトで眩しく照らされ、大勢の大人たちが押し寄せてくる。
敬太は岸に引き上げられた。
「俺も探す!親友なんだよ!」
いくら敬太が叫んでも、それは許されなかった。
敬太の代わりにウェットスーツを着たダイバーが湖に潜っていく。
ずぶ濡れの敬太は湖畔に膝を付き、握った小石を水面に投げつけて泣いていた。