空蝉


翔にはああ言われたが、バイトがあるので、繁華街を歩かないわけにはいかなかった。

そうでなければまわり道しなければならないため、帰宅するのにかなりの時間を要してしまうからだ。


時々、いつも通り女を連れて歩いている翔と目が合った。


しかし、翔はもう声を掛けてはこなかった。

だからやっぱり、あの日のことはキツネの仕業だったのだろうと、アユはありえもしない結論で、自らを納得させておいた。



「うっはー。疲れたぁ」


7月中旬。


期末テストの全日程を終え、解放されたような声を上げるケイ。

アユも「うーん」と伸びをした。



「さすがに疲れたね」

「私、わりと本気で英語やばい。赤点かもしんなーい」

「マジで? 補習とかありえないね」


なのに、ケイはちっとも深刻そうな顔をしていない。

それどころか、ケイはすっかり頭を切り替えていて、



「ねぇ、アユちゃん。それより久々に、一緒にご飯行こうよー。もうすぐ夏休みだし、遊ぶ計画も立てなきゃじゃん?」


テスト期間中は、午前中で学校が終わる。

ちょうどお腹も空いた頃だ。



「どうせ、悠生はこれからまだ部活のミーティングするみたいだし、たまには女ふたりでさぁ」

「いいね。行こうか」


アユはふたつ返事でうなづいた。


悠生は怒った顔でこちらを睨んでいたが、気付かないフリで無視しておく。

アユとケイは顔を見合わせて笑った。

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