空蝉


セール中らしく、ドーナツ屋の店内は、たくさんの人で賑わっていた。

あそこに一緒に入っていく気力はない。


アユはケイに、「外で待ってる」と言った。


自動販売機でジュースを買い、街路樹で日陰になったガードレールに腰掛け、それを喉の奥に流し込んだ。

冷たさが体中に沁み渡る。



「あー、生き返る」


おばさんくさいことを言いながら、アユは通りに目をやった。




翔がいた。

昼に見るなんて初めてだ。


こんな時間にこんな場所で、ひとりで何やってんだろう。



そんなアユの視線に気付いたのか、翔の目が、不意にこちらに向いた。



通りを挟んで目が合ったまま。


しばらくの後、翔がこちらに駆けてくる。

突然のことに、アユはジュースでむせそうになった。



「おい」


アユの前までやってきた翔の息が、少し荒い。

走ったからなのか、そのひたいにはじんわりと汗が滲んでいる。



「それ、コスプレか?」


開口一番の『それ』が何かがわからなくて、指差された先を辿ってみたら、どうやら制服のことらしかった。

そういえば、いつも着替えてからバイトに行っているため、翔が驚いている理由もうなづける。



「本物だよ。私、18。高3」

「マジか」
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