空蝉
「……人殺し?」
急に出てきたおぞましい単語に、さすがのヨシキも眉根を寄せてしまう。
美雨は左手首の古傷を指でなぞりながら、
「写真、見たでしょう? 私の親友だった子――紗奈っていうんですけど。私が殺したんです」
「何で」
何でそんな子と一緒に写ってる写真を、今も後生大事に飾ってるの?
と、聞きたかったが、上手く言葉にならなかった。
しかし、美雨はそれを、どうして殺したのか、という意味に受け取ったらしい。
「紗奈とは中学の頃、同じ部活動をやっていて仲良くなりました。美術部だったんですけど。彼女はとても絵が上手くて、賞をもらったりもしてて。私も負けないようにと、互いに励ましながら、いつもふたりで一緒にいました」
「………」
「高校も同じところを受験して、ふたりで合格しました。高校に入って、新しい友達もできたけど、私たちの仲は変わりませんでした。少なくとも、私はそう思っていました」
「でも」と、言葉を切った美雨は、沈痛な顔で、
「でも、ある日、私が仲よくなったある女の子が言ったんです。『紗奈っていつも絵ばっかり描いてて、何か気持ち悪いよね』と」
「いじめ?」
「はい。簡単に言えば、そうです。その子はクラスのリーダーみたいな子で、家もお金持ちだし、ちょっと怖い先輩と付き合ってたから誰も意見できなくて」
美雨は顔を覆った。
そして肩で息をしながら、
「私は紗奈を庇ってあげられなかった。同じ目に遭うのが怖くて、いつもその子に同調してた。結果、紗奈は自宅マンションの屋上から飛び降りました。自殺です」
美雨は堰を切ったように言う。
「私の所為なんです。私が悪いんです。私が美雨を殺したんです」
いじめられているのを助けられず、それどころかそれに加担したことで、親友を自殺に追い込んでしまった美雨。
美雨は今も人知れずそれを抱え、自らの罪を忘れないために、かつての親友と一緒に写っている写真を飾っているのだろう。
自分と重なり過ぎて、ヨシキはひどく怖くなった。
急に出てきたおぞましい単語に、さすがのヨシキも眉根を寄せてしまう。
美雨は左手首の古傷を指でなぞりながら、
「写真、見たでしょう? 私の親友だった子――紗奈っていうんですけど。私が殺したんです」
「何で」
何でそんな子と一緒に写ってる写真を、今も後生大事に飾ってるの?
と、聞きたかったが、上手く言葉にならなかった。
しかし、美雨はそれを、どうして殺したのか、という意味に受け取ったらしい。
「紗奈とは中学の頃、同じ部活動をやっていて仲良くなりました。美術部だったんですけど。彼女はとても絵が上手くて、賞をもらったりもしてて。私も負けないようにと、互いに励ましながら、いつもふたりで一緒にいました」
「………」
「高校も同じところを受験して、ふたりで合格しました。高校に入って、新しい友達もできたけど、私たちの仲は変わりませんでした。少なくとも、私はそう思っていました」
「でも」と、言葉を切った美雨は、沈痛な顔で、
「でも、ある日、私が仲よくなったある女の子が言ったんです。『紗奈っていつも絵ばっかり描いてて、何か気持ち悪いよね』と」
「いじめ?」
「はい。簡単に言えば、そうです。その子はクラスのリーダーみたいな子で、家もお金持ちだし、ちょっと怖い先輩と付き合ってたから誰も意見できなくて」
美雨は顔を覆った。
そして肩で息をしながら、
「私は紗奈を庇ってあげられなかった。同じ目に遭うのが怖くて、いつもその子に同調してた。結果、紗奈は自宅マンションの屋上から飛び降りました。自殺です」
美雨は堰を切ったように言う。
「私の所為なんです。私が悪いんです。私が美雨を殺したんです」
いじめられているのを助けられず、それどころかそれに加担したことで、親友を自殺に追い込んでしまった美雨。
美雨は今も人知れずそれを抱え、自らの罪を忘れないために、かつての親友と一緒に写っている写真を飾っているのだろう。
自分と重なり過ぎて、ヨシキはひどく怖くなった。