空蝉
「この傷、もう気付いてると思いますけど。あれから、何度も死のうとしました」


「でも死ねなかったんですけどね」と、美雨は自嘲気味に言った。


目眩がする。

立っているはずなのに、まるで地に足がついている感覚がない。



「紗奈は服飾系のデザイナーになるのが夢でした。でも、私にはそんな才能はなかったので、少しでも紗奈の夢に近い場所でと、今の仕事を」

「………」

「こんなことをしたって、罪を償えるわけではないし、結局は、少しでも許されたいという自分のためでしかないんでしょうけど」


きっと美雨は親友を失ってから、なるべく誰とも関わらずに生きてきたのだろう。

自分ひとりだけが幸せになるわけにはいかない、と。


だから、いつも、誰に対しても謝っているのだろう。



「あなたと私は違います。私は人殺しです」


もう一度言った美雨は、



「だから、もう二度と私に関わらないでください。それを言うために、今日あなたをここへ呼びました」


体中が熱を失っているのがわかる。

耳鳴りがひどくて、上手く美雨の言葉が聞き取れない。


真理に会いたい。



「あなただって、私みたいな人間といて、変な噂を立てられたくはないでしょう? 私にとっても迷惑ですし」


美雨は「失礼します」とヨシキに頭を下げ、きびすを返した。


ついに立っていられなくなったヨシキは、崩れるように膝をついた。

ぐちゃぐちゃになった感情が、一気に噴出する。



「うわぁあああああ!」


叫んだ瞬間、涙が溢れた。


真理のところに行かなければならないと思った。

どうしてだか、そう強く思った。

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