空蝉
「でもね、自分が死んだらまたみんなを泣かせるってわかったんだ。怒られた。親友に。『甘ったれてんじゃねぇ』って」

「………」

「『人間、どうせいつかは死ぬんだよ』、『誰だってそのうちあの世へは行けるんだ』、『だったらそれまで、精一杯、胸張って生きてから死ねよ』、『それすらしてねぇくせに、簡単に逃げんな』ってね」

「………」

「俺も、きみも、ちゃんと過去を背負った上で、生きていく義務があるの。そうじゃなきゃ、あの世へ行った時、相手の子と合わせる顔がないでしょ」


顔を覆う美雨。

声を押し殺し、美雨は肩を震わせていた。



「きみがこの先、どういう風に生きようとしてるのかはわからない。でも、一生を賭けて償うつもりでもいいから、もう二度と死のうとはしないで」

「………」

「きみが死んで楽になる分、まわりを余計、苦しめることになるだけだから。そしたらまた、俺たちと同じような人が増えてしまうじゃない。それはとても悲しいことでしょ?」


ヨシキは美雨の頭を撫でた。



「ごめんね、泣かせちゃって。でも、どうしてもそれだけ言いたかったから」


美雨は顎先だけで首を振り、涙を拭って顔を上げた。

真っ直ぐに目が合う。



「ありがとうございます。色々、自分なりに考えてみます」

「うん」


ヨシキが「じゃあね」と言い、ふたりはそこで別れた。




家に帰ると、雨が降り出した。

今週はずっと晴れるという予報だったのに、当てにならないなと、ヨシキは肩をすくめて窓の外に目をやった。


窓の外は雨粒に歪み、街を染める夜の輝きが乱反射されている。


ヨシキは、素直にそれを綺麗だと思った。

そして、初めて雨の美しさに気付いた気がした。



雨は誰かの涙などではなく、世界の悲しみを洗い流してくれる、とても優しいものなのだ、と。

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