十八歳の花嫁

「痛いっ! いた、いた、た……」


ふいに、宏志が悲鳴を上げた。

開いた扉の隙間から腕が伸び、その手は宏志の髪を鷲づかみにしている。


「邸内で襲おうなんて、おまえにそんな度胸があったとは知らなかったな」


藤臣の声だ。
と思った直後、宏志は髪を引き摺られ個室の外に連れ出された。


「み、宮前だよ。ア、アイツが、チャンスを作ってやるからって……痛いよ、放してくれよっ。本気じゃなかったんだ。……カンベンしてよぉ」


宏志はすでに半泣きだ。

ホッとして脱力しそうになる愛実だったが、これだけは言っておかなければならない。


「個室の中をカメラに撮るなんて、ひどいわ。全部消してくださいっ!」


愛実の言葉に藤臣は状況を察したらしい。

宏志がコソッとポケットに仕舞おうとした物を取り上げ、床に叩きつけた後、革靴で粉々に踏み潰した。

藤臣は宏志の髪から手を放すと、彼の襟首を掴み、さらに首を腕で押さえ込む。

わずかに首が絞まり、宏志は怯えた目で藤臣を見上げていた。


「信一郎は手の骨が砕けて全治三ヶ月だ。おまえはどこを砕かれたい?」


宏志は声もなく、痙攣したように顔をブルブルと左右に動かす。


「女が欲しけりゃ風俗に行って来い。間違っても、愛実を想像しておっ勃(た)てようものなら……踏み潰すぞ。わかったな」


藤臣の言葉に震え上がり、宏志は転がるように化粧室から出て行くのだった。

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