十八歳の花嫁

第12話 迷走

第12話 迷走





藤臣が運転する車に乗るのはこれで二度目だ。

一度目は信一郎に襲われたときで、愛実はほとんど覚えていない。あの夜もポルシェだったはずだが、愛実の中ではハンドルを握る彼を見るのは初めての気分だった。

ギアをチェンジする指先がカッコよく見えるのはなぜだろう。
ちらっと視線を上げると、前髪が少し乱れて額にパラパラと落ちていた。
仕事中のときは綺麗にセットしているので、今の藤臣はとってもセクシーに感じる。

ほんの短い期間だったがホテルの一室で藤臣と一緒に過ごし、愛実は彼のいろんな面を知った。
愛実の場合、どんなことでも記念や思い出に、と色々残してしまう。
ホテルに置かれた冊子や、彼と一緒に入ったお店のコースターまで。よろしければどうぞ、とお店の人に一枚もらい、愛実は笑顔で礼を言った。
小さなころから集めた思い出の品は、ダンボール箱に入った宝物だ。

だが、藤臣は違った。
必要なものを最小限、というのが基本らしい。
写真の類が嫌いで、携帯カメラで撮ろうとしても嫌がられる。過去はさっさと忘れ、未来に期待もしない。
それはひどく刹那的で、愛実には殺伐とした生き方に映った。


(わたしが藤臣さんを変えられたら……今よりもっと好きになったら、ふたりで一緒に未来を語れるかもしれない)


そんな愛実の胸に、わずかだが影を落としていたのは藤臣の些細な仕草だ。

傍に寄ろうとする彼女とは逆に、藤臣は離れようとした。最初は気のせいかと思ったが、何度も続くと愛実は不安になる。

だが今の彼女は、感情の大部分が“初めてのキス”で占められていた。

小さな不安など、見えなくなるくらいに。

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