十八歳の花嫁

ポルシェが西園寺邸の門の前に停まった。

数年間誰も住んでいなかったせいで、邸内だけじゃなく庭も荒れ放題だ。
庭師に頼む余裕がないため、愛実が弟妹に手伝わせてせっせと手を入れている。
特に門扉の辺りはお客様を迎えるために、真っ先に綺麗にしたばかりだ。

愛実が車から降りると、藤臣も降りて来た。

車内ではずっと難しい顔をしたまま、彼は無言で……。
愛実から話しかけるタイミングが掴めず、結局、会話のないまま家に着いてしまった。

門の前で愛実は立ち止まる。
別れ際のキスというのは映画やドラマでもよく見かけるものだ。
ひょっとしたら、と愛実は密かに期待していた。

愛実がそっと藤臣を見上げると、彼は呼応するように視線を逸らせたのである。


「さっきはすまなかった。暁さんたちに当てられたらしい。……男って奴はこれだから始末に負えないな。もう、二度とあんなことはしないつもりだ。君が結婚を取りやめる気になってないといいんだが」


それは愛実が一番聞きたくない言葉だった。

心底申し訳なさそうな……藤臣の謝罪。

積み上げた期待は脆くも崩れ、ひとりで浮かれていた自分がとんでもなく恥ずかしい気持ちになる。


「い……え、特に気にしてませんから。あれくらい……なんでもありません」


胸の奥から押し出すように答えた。

喉が詰まって苦しい。

息をするだけで、涙が零れそうになる。

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