十八歳の花嫁

「……藤臣さん……」


それは首筋を羽毛でくすぐられるような、ふわふわした声だ。

愛実に名前を呼ばれ、彼は魅惑的な谷間から、愛らしい顔に視線を上げた。
今日は髪にも生花を飾っている。淡いピンクの薔薇にかすみ草を散らし、編み込んだ長い髪は片方に纏めて垂らしてあった。
うなじに流れる二~三本の後れ毛が、初々しい色香を漂わせていて……。

ここはホテルだ。
当たり前のように、この上には数え切れないほどのベッドが用意されている。

このまま愛実の手を取り、そのひとつに駆け込みたい。

藤臣の中で欲望が嵐のように荒れ狂い始めた。


そのとき、唐突に愛実が彼の腕に触れ、顔を近づけて来たのだ。


(これは……キス、してもいいんだろうか?)


愛実も彼と同じ思いでいるのかもしれない。

藤臣が不埒なことを考えた瞬間――


「藤臣さん……藤臣さんたら! スピーチの時間だと、皆様が来られてますよ。どうかなさったんですか?」


藤臣はハッと我に返った。

周囲には東部デパートの重役と、瀬崎や奥村をはじめ秘書たちも揃っている。


(俺は……何をやってるんだ)


「あ、ああ、わかった。愛実、君も一緒に来てくれ。壇上で、隣に立っていてくれるだけでいいから」


そう言って愛実をエスコートしながら、なるべくゆっくりと歩く。

とにかく、頭の中からとんでもない妄想を追い払わなくては話にならない。
心と身体を落ちつかせるのに、さすがの藤臣も数分を要したのだった。

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