十八歳の花嫁

第11話 誤解

第11話 誤解





「美馬社長に限って、ねぇ」


ホホホ……中年女性の甲高い耳障りな笑い声が周囲に広がる。


「こんなに可愛い婚約者がいらっしゃるんですもの」

「きっと何かの間違いに違いありませんわ」


彼女らはそんな言葉で表向き愛実を励ますフリをしている。

だが、由佳には仮面の裏の興味本位が見て取れ、小さくため息を吐いた。

藤臣と久美子の関係は周知の事実だ。マスコミにあれだけ騒がれ、藤臣もどこ吹く風で出張先のホテルでは久美子と同衾していた。

この中年女性たちは、その辺りの話を愛実に聞かせてやりたいたくて、うずうずしている様子だ。


「あなた……本気で好きなの? 専務のこと」


由佳はついさっきの愛実の台詞を聞き、びっくりしたのである。

すべてがすべて“今時の女子高生”、そのひと言で集約されると思うほど由佳は単純ではない。

清楚や純真、潔癖、そんな呼び方が似合うような女子高生も存在する。
由佳もそうだった。
十代のころは『愛のないセックスなど論外』そう思っていたのに。
いつの間に、仕事のために上司と寝るようになったのだろう。


「好き、だったらいけませんか?」


愛実はそう答え、一瞬、泣きそうに頬が歪む。

もしここで、婚約者である愛実が泣き崩れてしまったら……事態は収拾不可能になる。
由佳はすぐさま彼女を連れて、パーティ会場から出ようと考えた。

しかし、愛実はグッと口元を引き締め、近寄って来たS銀行の頭取夫人に笑顔を見せたのだ。


(こんな子を騙すなんて……専務はどこまで冷酷なの?)


由佳には藤臣が『優しくて誠実で思いやりがあって……人の心の痛みがわかる人』だとは、どうしても思えなかった。

それに、藤臣が愛実に向ける視線は男のソレだ。

久美子のような女は、どれほど手厳しく捨てられても自業自得だろう。
所詮、キツネとタヌキの化かし合い。久美子ほど性質は悪くないにせよ、由佳にしても同じ穴のムジナである。

愛実には『悪いけどパス』なんて強がって見せたが、藤臣の妻の座に憧れなかったと言えば嘘だった。

藤臣は愛実の心を弄び、ベッドに連れ込もうとしている。

『後悔しません!』
――愛実は十年後、さっきの言葉を本当に後悔しないだろうか?

由佳は、愛実に対する嫉妬が消え、まるで保護者とも言うような不思議な感情を持ち始めていた。

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