十八歳の花嫁

第13話 正論

第13話 正論





藤臣が心の内がわからず、愛実は混乱の中にいた。

今までの彼とは態度が違う。
どこか頼りなげで、ひとつひとつ言葉を選ぶようにしている。

愛実は写真を見下ろし、久美子の裏切りが藤臣にここまで動揺を与えているのだと思い、切なくなった。


「……すまない。感情的になった。自分の責任はわかってるんだ。逃げるつもりなどない。私の子供であるなら、できる限りのことはしてやりたいと思う。金で済ませるんじゃなく、手元に置いて育てたい、と。君には申し訳ないが……」

「それは……それは私に」


生まれて藤臣の子供だとわかったら、出て行ってくれということだろうか。
愛実にそこまで尋ねる勇気はない。

ところが、藤臣は予想外のことを言い始めたのだ。


「愛人に産ませた子供を引き取って、十八歳の君に母親代わりをしてくれというのは酷い話だと思う。もちろん君が嫌だと言うなら、無理強いはしない。本邸には住ませないし、育児には乳母を付ける。だから……」

「待って! ちょっと待ってください。わたしと別れて、彼女を妻として迎えるんじゃ……?」


驚きのあまり、つい口にしてしまった。


(本当はそうしたいけど……そんなふうに言われたらどうしよう)


藤臣と久美子は愛し合っていたはずだ。
久美子はそう言ったし、それに、藤臣は間違いなく彼女と会っている。
信一郎に傷つけられた愛実をホテルに匿っていたときも、結婚を口にしながら久美子と……。


「だって、藤臣さんは長瀬さんを愛していらっしゃるんでしょう? あの人から、ジバンシーの“オルガンザ”が香りました。藤臣さんのスーツからも何度か……」


それは数年前、母が好んでつけていた香りだった。そうでなければ愛実に香水などわかるはずがない。
藤臣はこんな写真を撮らせるほど久美子に執着している。
興信所に頼んだのは、彼女を愛しているから。そうでなければ浮気など怪しむこともないだろう。

愛実はこのとき、自分の中に芽生えた感情に戸惑っていた。

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