十八歳の花嫁

愛実には信じられない世界なのだろう。
開いた口が塞がらないといった顔をしている。


「そんな……結婚した後で、生まれた子供があなたの子供じゃないとなったら……その子供はどうなるんですか?」

「ちょうどいい例がある。和威がそうだ。彼のように、父親の戸籍から抹消され、私生児となるんだ」


愛実はこのとき、和威の出生の真実を初めて知ることになった。

そんな彼女の様子に藤臣は少し後悔する。
これで愛実は和威に対して、これまで以上に親愛の情を見せるかもしれない。それがたとえ同情だとしても、目にしたくなかった。

愛実には自分だけを見ていて欲しい。


「あの……じゃ、これからどうするんですか?」

「え?」


和威に対する嫉妬が心の大半を占め、藤臣は自分の置かれた立場をうっかり忘れそうになる。


「長瀬さんの赤ちゃんです。生まれたら……どうなるんですか?」


愛実の口調は思ったより激しい。
何に怒っているのか……直後、藤臣はハッとした。
愛実の辞書に中絶という文字がないのだ。だが、久美子がそれを決断するであろうことを、愛実に伝えなければならない。

藤臣は躊躇するが、嘘は言わない約束だ。
彼は仕方なく、久美子自身が決断することを、そして彼女の答えはおそらく中絶に行き着くであろうことを、正直に話した。


「そんな……もし、藤臣さんの子供だったらどうするんですか!? 取り返しのつかないことになるんですよ!」

「君の言いたいことはわかる。だが、私の子供でなかったら? 相手の男は二十二歳と若く、彼女とはもう別れたと言っている。養育費どころか認知すらしないだろう。結婚など論外だ。しかもその可能性が極めて高い。そんなリスクを彼女に背負えと言えるのか?」


卑怯な言い方だとわかっていた。
本当に誠実な男であれば、わずかな確率でも責任を取るというだろう。
いや、そもそも誠実な男がこんな事態に陥るわけがないが……。


(その上、無垢な少女をこの手で穢すんだ……久美子に言われたとおり、間違いなく地獄に堕ちるな)


隣に座るだけで花の残り香に心を奪われ、緩くカールした髪にすら欲情を覚える。
藤臣はそんな自分を持て余していた。

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