十八歳の花嫁

第14話 錯覚

第14話 錯覚





それを口にした瞬間、藤臣は後悔していた。

勢い余って、とんでもないことを言ってしまった。
しかも、身体はすでに愛実の方を向き、ソファに隣り合って座ったふたりの距離は限りなくゼロに近い。
胸が高鳴り、愛実の身体に触れたくてどうしようもなくなる。


「それは……」


しかし、予想に反して愛実は答えを躊躇したのだ。

信一郎の子供ですら産むと即答した彼女が、藤臣の子供については迷っている。彼の心を満たしていた温かい感情が急速に冷え、寒々とした空間に取って代わった。


「なぜだ……なぜ嫌なんだ!? レイプされた子供でも産むと言いながら、どうして俺の子が産めない! 俺を好きだと言ったのは嘘か? 本当は俺が憎いのかっ!?」


やはり、自分のような人間は誰にも望まれない。
生きる意味も価値もないのだ。


(いっそ……この場で愛実を奪ってしまおうか?)


危険な考えが彼の胸をよぎる。
レイプも含めて女性に暴力を振るったことは一度もない。
だが……。


「だって……藤臣さんは、裁判にしてでも子供は引き取るって言いました。子供にとって実の母親じゃなくてもいい。離婚のときは置いて出て行けって言われたら……わたしは絶対に嫌です!」

「ちょ、ちょっと待て……待ってくれ。産みたくないとか、欲しくないとかじゃなくて?」


瞬く間に、愛実の瞳から真珠のような涙がこぼれ落ちる。
その雫があまりに美しく、藤臣はただ見惚れるだけだった。


すると、なんと愛実から藤臣に抱きついた。


「悔しい……藤臣さんの赤ちゃんかもしれないのに。わたしだったら、産んであげるのに。どうして? どうしてあの人なんですか? わたしにはキスだって一度しか……好きって言ったのが迷惑なんですよね。でも……わたしじゃダメなら、そんなこと聞かないでください!」

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