十八歳の花嫁

☆ ☆ ☆


「待たせたね」


愛実が社長室に通されて十分後、落ち着いた焦げ茶色のスーツを着て美馬は現れた。

年齢は三十代半ばだろうか。
独身と言っていたが、そうは思えない余裕がある。美馬グループの規模は愛実には想像もできない。
グループと同じ苗字ということは、オーナーの血縁なのだろう。
そうであっても、この大きなデパートの社長とは……きっと恐ろしく優秀な人に違いない。

そんなことを考えつつ、明るい陽射しの中、改めて彼の顔を見る。

やはり、お金で女子高生を買うような男性には見えない。
昨夜は前髪を垂らしていたが、今朝は整髪料で左右にセットしていた。そのせいか、黒い瞳がくっきりと見える。
窓から射し込む光が、後光のように彼を包み込み……愛実は思わず見惚れてしまった。

ラブホテルでは首筋にキスされ、胸の輪郭を指先でなぞられた。
あの手がスカートの裾から入り、愛実の太腿を撫でたのだ。そして、アパートの前では彼の胸に抱きつき、泣きじゃくってしまった。


「どうした? かけてくれ」


美馬の言葉に愛実はハッと我に返る。


(見惚れていてどうするの? だから、女子高生なんて笑われるんじゃない)


「いえ、結構です。あの……どうして尚樹にあんなことを言ったんですか? あんな」


ここまで案内してくれた女性が同じ部屋に居た。さすがに、昨夜の出来事を口にするのは躊躇われ……。
美馬も気づいたらしい。


「浅野くん、ここはもういい。下がってくれ」

「はい。失礼いたします」


浅野と呼ばれた女性は一礼してドアを閉めた。
数秒後、ハイヒールの靴音はしだいに遠ざかって行く。

愛実は立ったまま深呼吸するとひと息に言った。


「お金は働いてお返します。ですから……弟に言ったことを取り消してください」

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