十八歳の花嫁
――リビングで数学の教科書を開いていたとき、ふいに、尚樹が沈んだ声で藤臣に質問してきた。
『姉さんがお金のために結婚するなんて思ってません。でも、もしそうなら……僕らのためなんだ。美馬さんはどうなんですか? どうして、姉さんと結婚するんですか?』
その深刻そうな表情に驚きながら事情を聞き出すと、
――愛実のおかげでラッキーだったな。母親に似て、男を誑し込むのが上手い娘だ。
パーティの後、久しぶりに顔を合わせた親戚は、酔った勢いで尚樹にそんな言葉を浴びせかけたという。
『愛してるよ、心から。私に金があったのは偶然だ。だがそれを負担に思うなら、君は一生懸命勉強して、将来、何かの形で返してくれたらいい』
尚樹は藤臣の返事に安堵した様子だった。
「あの……ご飯もお口に合いませんでしたよね? でも、高級料理なんて……わたしには作れなくて」
黙り込む藤臣の様子をどう思ったのか、愛実は妙に心配そうだ。
「オムライスは嫌いじゃない。亡くなった母が機嫌のいいときに作ってくれた記憶がある。ああ、そう言えば、施設でも日曜の昼食によく出てたな。十歳のころに戻って、君と人生をやり直せたらいいのに……」
その言葉に深い意味はなく、藤臣は本音を漏らしただけだったが……。