十八歳の花嫁

第5話 血縁

第5話 血縁





藤臣はハッとしてキスをやめ、中二階の踊り場に視線を向ける。

冷ややかなまなざしでふたりを見上げていたのは、美馬和威だった。


「邪魔するつもりはないんだが、こっちも仕事帰りなんだ。ここを通らなきゃ自分の部屋に行けないもんでね」


紺のスーツに同系色のネクタイ、ビジネスバッグを抱えたごく普通の会社員スタイル。
ただ、上着のボタンを外し、ネクタイを弛めた姿はどこかだらしなく感じ、これまでの和威とは随分印象が違う。

由佳との情事の現場に和威が愛実を連れて現れたあの日、藤臣は彼を本社に呼びつけた。

信一郎が愛実を襲ったこと。藤臣が彼女を救い出し、結果、ふたりでホテルに宿泊するようになった事情などを説明する。
簡単には納得できないまでも、愛実が藤臣を信じると言う以上、和威に出番はない。
彼は黙って引き下がったはずだった。

だが思えば、和威は身内に向けた婚約披露には欠席。T国ホテルのパーティは顔を出したようだが、一度も話はしなかった。
この間、藤臣は自分のことに必死で、和威のことまで考える余裕はなく……。

そう言えばつい先日、『和威の帰宅が遅くなった。女でもできたのではないか』そんな話題をどこかで耳にした気がする。


藤臣は軽く頭を振ると気を取り直し、


「やあ、すまないな。婚約中なんだ。大目に見てもらえたらありがたい」


和威は何も答えず、愛実から離れようとしない藤臣の背後をすれ違った。
そのときだ。


「待て、和威。おまえ……こんな時間から飲んでるのか?」

「……大した量じゃない」

「まだ六時にもなってないんだぞ。それに、一般社員が帰宅するには早過ぎる時間じゃないか?」


遅くなる分には和威も男だ、気づかない振りをするのが礼儀だろう。
だが、なんの肩書きも持たない和威が、普通に仕事を終えて帰宅するのは七時を回るはずだった。
さらにどこかで飲んでくるとしたら、もっと遅くなる。

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