十八歳の花嫁

☆ ☆ ☆


あの夜、愛実を自宅まで送り届けた後、藤臣は本社に向かった。

途中、瀬崎とのやり取りを思い出しながら――


『社長――東恭子さんを覚えておられますか?』

『なんだ、いきなり』

『では、石川恭子さんなら、どうです?』


携帯から思わぬ人物の名前を聞き、藤臣は動揺した。
なぜなら、瀬崎に“石川恭子”の存在は話していなかったからだ。


(いったい何なんだ!? 結婚まで後二週間だっていうのに!)


――本社の専務室に瀬崎がいた。

他の秘書や社員はおらず、彼ひとりだ。
そして見せられたのが、女性週刊誌の記事だった。


「明後日に発売されます。止めるのは無理でした。申し訳ありません」

「謝る必要はない。馬鹿馬鹿しい」


瀬崎が入手したゲラ刷りの原稿を、彼はテーブルに放り投げた。


「何が内縁の妻だ。十年前に結婚する予定だったんだぞ。俺の子供じゃない、と逃げたのは向こうだ。昔話を持ち出すにも程がある!」


どうせ、この“知人”とやらが情報を売ったのだろう。
久美子が知り得たはずはないので、裏で糸を引いているのは弥生か信二か、または暁という可能性もある。

問題は恭子だ。
彼女がこんなすぐにバレる嘘をつくとは思い難い。それに藤臣との復縁を狙うなら、ここまでに何度でもチャンスはあったはずだ。
彼女は親子三人の静かな暮らしを望んでいた……。


「瀬崎、この一件で彼女らはどうなる? 仮名になっているが、まさか、インタビューに行くような記者はいないだろうな?」

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