十八歳の花嫁

「どうしたんだ。今日は酔ってないのか?」


先日、自分をコントロールできなくなり、酒の勢いで藤臣や愛実に八つ当たりしたことを思い出す。


「あのときは……すみませんでした。愛実さんにも、失礼なことを言ってしまって。あの日、彼女がこの家に泊まらなかったのは、僕が原因ですか?」


愛実と一緒のときに謝ろうと思っていたのだが、思わず口にしてしまう。
藤臣は苦笑しながら首を振った。


「いや、おまえのせいじゃないよ。朝食や夕食に同席するようになってよかった。あのまま、信一郎さんや宏志くんのように、この家から離れて行くんじゃないかと心配していたんだ」

「宏志はこの家にいますよ。ヤツに出て行く勇気なんてあるもんか」

「彼は“いるだけ”だろう。滅多に顔も見ないし、食事も部屋で取ってる。家族とは言えないさ」


特にどこがおかしいというわけではない。
だが、どことなく藤臣の印象がこれまでと変わってきていた。


「藤臣さん、何かあったんですか?」

「どうしてだ?」

「さっきのおばあ様の様子といい、信二さんたちの口調といい、また何か起こってるんじゃないかと思って。僕だっていつまでも半人前じゃない。ちゃんと聞かせて欲しいんだ」


上手くは言えないが、何かが違う。
いや、一志が生きていたころに戻ったかのようだ。
苦悩に満ちた表情、とても、数日後に結婚を控えた花婿の顔ではなかった。

次の瞬間、藤臣はクッと意地悪そうな笑みを作り、


「相変わらずだな、和威。何が起こっているのか、自分も知りたいと思うなら、確かなルートを作って調べ上げろ。尋ねて教えてもらえる事実が、真実とは限らないんだ。それに、せっかく手にしたカードを……驚かせるだけで効果的とは言えない使い方をするな」


結局、軽くかわされただけだった。

なんの収穫もないまま和威は部屋に戻ったとき、ドアの前に執事の糸井が立っていた。


「大奥様がお呼びでございます」


そう口にしたのである。

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