十八歳の花嫁

☆ ☆ ☆


――藤臣や弟妹とアフタヌーンティを楽しんだ翌日のこと。


結婚式を二日後に控え、愛実は何となく落ちつかずにいた。ドレスも決まり、何もかも順調に行っているはずなのに。

出会いの気まずさが、いつまでも引っかかるのだろうか?
それとも、弥生の好意で相続人にしてもらいながら、彼女が最も疎ましく思っているはずの藤臣を夫に選んだことか……。

藤臣はほとんどの財産を相続したと聞く。
ならば、弥生が家屋敷だけは血の繋がった孫に残したいという願いを聞き届けてはくれないだろうか。
今のままで維持できるのは彼だけ、という話だ。しかし、藤臣の援助があれば、どうにかなるのではないか。


美馬を跡形もなく潰したい、という藤臣の復讐心など、愛実が知るはずもなく……。


弟妹が学校に行った後、愛実は家のことを家政婦に任せ、自分は荷物の整理をしていた。
母は最近夜が遅く、昼頃まで寝ている。

今日は午後から、ひとりで祖母の見舞いに行く予定だ。
会うたびに『はじめまして』を繰り返す。それでも彼女の名前を聞くと、嬉しそうに微笑んでくれる。


『まあ、愛実さんとおっしゃるのね。旦那様と約束しているのですよ。娘が生まれたら“愛実”にしましょう、と。彼女の人生に美しい愛の花が咲き、実り多いものでありますように……』


それは、娘に恵まれなかった祖父母が、愛実の名前に籠めた願いだった。

古いアルバムから祖父母が並んだ写真を見つけ、愛実はしばらくみつめ続ける。
祖父は弥生のことを覚えていただろうか。覚えていたとしても、弥生のように考えたかどうかはわからない。


そのとき、家政婦が来客を告げた。

< 290 / 380 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop