十八歳の花嫁
「まずはおまえに謝りたい。長い間、騙していて悪かった。ただ……先代は生前、私を息子とは認めようとしなかったんだ。亡くなって、いきなり父親だと認められても、困惑しただけだった」
和威にはわけがわからない。
なぜ、出生の話になるのだろう。やはり、愛実のことはこの家を相続するためだけの道具に過ぎなかったのか。
そう思うと、理不尽にも怒りがわき上がる。
「話はそんなことなんですか? 愛実さんのことは……」
そのときだ、スッと藤臣は身体を引くと、頭を下げた。
「愛実を頼む。美馬家の騒動に巻き込み、結果的に彼女の一生を美馬家に縛り付けることになった。どうか、幸せにしてやってほしい。私は一連の騒動の責任を取って、本社取締役を辞任した。東部デパートの社長も、副社長に任せるつもりだ。騒ぎが収まるまで、私が東京にいないほうがいいだろう。この家も出る。和威、次の社長はおまえだ」
これまで見たことのない藤臣がそこにいた。
まるで憑き物が落ちたかのような悟り澄ました表情に、和威は何と答えたらいいのかわからない。
「ま、待ってくれ。僕は、愛実さんと結婚してこの屋敷を相続することにした。でも、藤臣さんを会社から追い出すつもりなんてない! これまでどおり」
「わかってる。おまえがトップとしてやっていけるようになるまで、サポートするつもりだ」
「いや、そうじゃなくて!」
「悪い、和威。私にとって“美馬”にはもうなんの興味もないんだ。働く意味も目的もない。気が狂うほど欲しかったモノは、憎しみの作り出した幻だった。和威、私のような生き方だけはするな。どんな力にでもなる。だから、愛実のことを頼む」
――自分のほうが愛実を幸せにできる。
その思いを藤臣本人に肯定されたとき、和威の心は迷宮の真ん中に放り出されていた。