十八歳の花嫁

だが石川は、


『俺たちのせいにはならないから心配するな。鑑定した会社のミスなんだよ。大騒ぎにならないうちに決着はつくからさ。借金を払って、店でも開ける金をもらって、家族で遠くに行ってやり直そうぜ』


確かにそうだ。
恭子はDNA鑑定に判断を任せただけ、その会社を選んだのは瀬崎である。
石川には、藤臣から金を取れ、とは言われていない。金銭的なものは、石川にその話を持ち込んだ相手とやり取りしているようだった。

だが、当初、恭子が仮名で週刊誌に載るだけのはずが、娘の写真まで目の部分を隠しただけで載せられてしまう。
恭子たちはアパートで暮らすこともできなくなり……。
そして絵美は自分の出生を疑い始めたのだ。


『もういいでしょう? もうお金は受け取ったんでしょう? 絵美には嘘をつきたくないの。美馬家の人には酷いことを言われたし、実家の親にも迷惑をかけて……私たち、家にも戻れなくなったけど。でも、美馬社長の……藤臣さんのせいじゃないわ。四年前、あなたが残していった借金、彼が払ってくれたのよ。お願い、彼には幸せになって欲しいの』

『ああ……わかったよ』


恭子が石川と連絡が取れたのはそれが最後だった。

娘の名前で石川の戸籍を確認すると、彼はすでに三年前、別の女性と入籍し子供まで生まれていた。
そして、恭子が唯一知っていた石川の連絡先、携帯電話は即日解約されたのだった。


「十年前、私が石川と逃げて、私たちの実家は莫大な慰謝料を美馬家に請求されたんです。親には二度と顔を合わせられないほど、迷惑をかけました。石川も少しでも美馬の息のかかった会社には、就職できず……。私、少しでも石川の役に立ちたかった。社長はあんなに成功しているんだから、少しくらい……そう思って」


石川が姿を消し、恭子はやっとわかったのだ。
自分たち親子は利用されただけ、ということに。

偽りがバレたらすべての責任は恭子にくる。鑑定を請け負った会社のミスだと言い切れる彼女ではなかった。

しかも絵美は、自分のせいで離婚したと思っているのだ。
本当の父親の名前を、恭子の口から聞かせてほしいとねだってきて……。

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