十八歳の花嫁

耐え切れず、恭子は藤臣をせっついた。

いっそ鑑定結果を公式に否定してほしい。新しい生活を始められるお金さえもらえたら、子供を連れて遠くで暮らすから、と。


「なのに、美馬さんはそんなことはできないとおっしゃって」


恭子は睡眠薬を飲んでも眠れなくなり、昨夜は、ついつい過剰に飲みすぎてしまった。

そして目を覚ました彼女に絵美は言った。


『美馬社長さんていい人だよ。あたしがいいって言ったら、ちゃんとしたお父さんになってくれるって。博之のことも一緒でいいって言ってくれたよ。ねぇお母さん、これからは幸せになれるね!』


屈託のない絵美の笑顔に、恭子は背筋が凍りつく。取り返しのつかない罪を犯してしまった、と。
婚約者から藤臣を奪い、藤臣からは仕事を奪った。

真実を知れば、絵美は二度と母親を信じようとしないだろう。


「ごめんなさい……ごめんなさい……もう誰とも、生きて合わせる顔はないんです!」


恭子の告白に青褪めたのは瀬崎である。

鑑定を依頼した会社は海外で、美馬家の誰にも知られてはいないはず……。

そのとき、瀬崎はひとつの可能性に気が付いた。
弁護士に提出した藤臣と一志の親子鑑定書類、社名は伏せたものの担当者のサインは入っていたはずだ。
こういった仕事を請け負う会社は、世界にそう多くはない。
原本を手にすることができる人間であれば、調査することは金さえあれば容易い。

もしそうであれば、瀬崎はまんまと罠に嵌まり、藤臣を失脚させる側に加担したも同然で――。


「ひとつだけ確認させてください。絵美さんは、社長の子供ではないんですね?」


感情を殺し、できるだけ穏やかに問いかける。


「……はい……」


恭子の返事に、瀬崎は拳を握り締め、目を閉じた。

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