十八歳の花嫁

「……わたくしの?」


弥生は驚いたような顔をして、しわがれた声でフフッと笑った。


「そうそう、わたくしたちに娘が生まれたら“愛実”と名付けよう。そう、あの方はおっしゃったのですよ。それを――生涯独身でおられたならともかく、若い妻を娶り、孫娘に“愛実”の名前をつけるなんて! ええ、そうですとも“西園寺愛実”はわたくしのモノ。瀬崎……不満ならおまえが買い戻してごらんなさい」


弥生は人生の終盤を迎えた人間だ。
たった三十そこそこの瀬崎が情に訴え、説き伏せられるはずがない。いや、おそらくどんな人間にも不可能だろう。

瀬崎は説得の相手を変えた。

弥生の後方に立ち、暴言を吐く祖母を唖然とみつめる和威に問いかける。


「和威様、申し訳ありませんでした。私が間違っておりました」


和威はハッとして瀬崎に顔を向ける。


「美馬社長……藤臣様はこの家を酷く憎んでおられた。でもあの方は、本当は家族のことを第一に考える、優しい方なのです――」


恭子の娘が藤臣の実子と判明したとき、それを知った瀬崎は胸が高鳴った。

愛実との出会いは藤臣の凝り固まった憎しみに亀裂を入れたが、溶かすまでは至らなかった。だが、実の娘であれば……。
異父妹を守れなかった藤臣は、愛する誰かを守り抜くことを切望しているはずなのだ。


「私は和威様に協力するような真似をしました。知り得た事実に、理性を失ったからです」


唇を噛み締める瀬崎に、和威は尋ねた。


「いったい、何があったんですか? おばあ様が、藤臣さんをよく思っていないのは、今に始まったことじゃない。それをなんでこんな日に」


いぶかしがる和威の手をトントンと叩き、「さ、行きますよ」弥生は何もなかったように車に乗り込む。


「東恭子さんの娘さんは、社長のお子さんではありませんでした。何者かが東さんの元夫に金を渡し、復縁を希望していた東さんに偽証させたのです」


鑑定を依頼した会社に連絡を取ったところ、すでに担当者は辞めていた。
直ちに検査書類を確認させ、判明した事実は――。

鑑定結果が、一志と藤臣のものと丸々入れ替わっていたのである。

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