十八歳の花嫁

第14話 助勢

第14話 助勢





愛実と弥生の間に割って入ったのは和威だった。


「もう、やめてください。――おばあ様、両親に捨てられた僕を面倒みてくれてありがとうございました。僕も美馬を出ます。愛実さん、藤臣さんのところに行こう!」


和威から手を差し伸べられ、愛実は迷った。
藤臣の手を放すと決めたのは彼女自身だ。いまさら……そんな思いが胸を塞ぐ。

追い討ちをかけるように母は愛実の腕にしがみつき、泣き言を口にした。


「愛実さん! まさか、母さんたちを見捨てて行ったりしないわよね? こうなったのはすべてあなたのせいなのよ。あなたが結婚するなんて言い出したから……」

「いい加減にしろよ! 誰でもいいから美馬の人間と結婚しろって言ったんじゃないか!? 姉さんは美馬さんが……藤臣さんが好きだったんだ。それなのに」


弟の尚樹が母を抑え、悔しそうな声を上げた。


「お姉ちゃん、あたしたちアパート暮らしでいいよ。中学卒業したら働くし、カップラーメンだって慎也と半分こでいい。だから、嫌な人と結婚したりしないで!」


真美も必死になって叫ぶ。

愛実はブーケを床に置くと、走りやすいようにドレスの裾をたくし上げ、弟たちに答えた。


「もう一度、藤臣さんに頼んでくるわ。『わたしたちを助けてください』って」


違うホテルのチャペルで藤臣は言ってくれた。

――助けてくれる人間は、私にはひとりもいなかったからね。だから、君を助けたい。

婚約発表のときも、

――彼女なら赤貧にも耐えてくれるでしょう。私も後顧の憂いなく仕事に心血が注げますよ。


大勢の前で愛実を庇ってくれたのだ。
絵美が実子でなく、恭子とやり直すことを考えずに済むなら……。

いまさら、と藤臣に言われたとしても、愛実から放した手なら、自分から追いかけて行かなくては。
その思いが愛実に勇気をくれた。


「無駄ですよ。最早あの男に、僅かな力も残っているものですか。和威さんも、愚か者の真似がしたいと言うのですね。情けないこと」


振り上げた杖を和威に押さえられ、仕方なしに下ろしたものの……弥生の形相は鬼のように歪んでいる。
弥生は憎しみを露わにし、愛実に侮蔑のまなざしを向けた。
だが、強気な言葉とは裏腹に、皺だらけの手はぶるぶると震える。


「力があってもなくても、わたしは藤臣さんが好きです。お母さん、ごめんなさい。尚樹、皆をお願いっ!」


愛実は勢いをつけて頭を下げ――駆け出した。

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