十八歳の花嫁
せめてドレスを脱いでからという愛実を、和威は引き止めた。
「色々うるさい連中に捕まったら逃げ出せなくなる。とりあえず、このホテルを出てから考えよう」
確かに、親戚たちに泣きつかれたら、それでも振り切れるかどうかわからない。
愛実はうなずき、和威に付いて行くことにした。
十分後、ふたりはまだホテルの中にいた。
ホテルの入り口付近にマスコミが集中しており、出るに出られないのだ。
こういうときに機転の利く側近や秘書など、和威にいるはずもなく。
「愛実さん、僕が彼らを引き付ける。その間にタクシーでここを離れるんだ。まず、瀬崎さんに連絡を取れば……きっとどうにかしてくれると思う」
和威はそんなことを言いながら、愛実に自分の財布と携帯電話を押し付けた。
「そんな……和威さんだけ残ったら、皆さんになんて言われるか」
「藤臣さんは多分、今日明日にも東京から出て行く。ひょっとしたら、日本からもいなくなるかも……。子供のことも知っているのかどうかわからない。瀬崎さんも必死で探していたから」
和威はギュッと愛実の手を握る。
「――嬉しかった。僕を庇っておばあ様に歯向かってくれたのは、君だけだ。助けてくれて、ありがとう。だから、今度は僕が助けたい」
思えば、和威は一度も愛実を『愛してる』とは言わなかった。
愛実はそんなことを考えながら、
「わたし、藤臣さんを置いて逃げたりしないって約束したんです。だから、彼が何もかも失ったなら、わたしは彼の傍に行かないと……和威さん、ごめんなさい」
愛実の顔を知っている従業員が彼女をそっと裏から逃がしてくれた。
出たところにタクシーが待っている、と言われ外に出る。しかし、連絡が上手く取れていないのか、タクシーはどこにもおらず……。
焦る愛実の前に一台の車が停まった。