十八歳の花嫁

そんな愛実の言葉に、なぜか暁はずっと笑っている。


「あの……わたし、何かおかしなことを言いましたか?」

「ああ、いや。全部、藤臣くんのことばかりだと思ってね」


暁に言われて初めて気が付き、愛実は赤面した。

確かに、美馬の感想を聞かれたわけではない。なのに、愛実の心に焼き付いているのは、美馬の姿ばかりだ。


昨日ほどではないが、かなり遅くなってしまった。
弟たちはもう眠っている時間だろう。

愛実は元の服に着替えている。そのままで、と言われたがそんなわけにもいかない。
代わって美馬が持たせてくれたのは、弟たちへの土産だった。
ディナーをいただきながら、愛実は自分だけ美味しいものを食べることに罪悪感を覚えていたのだ。
ため息を吐きつつ口に運ぶ彼女の様子に、気づいてくれたのは美馬だった。
同じものを兄弟分用意して、持たせてくれたのである。


冷たい素振りや厳しい言葉をぶつけながら、思いもかけぬ優しさを見せてくれる。

――どうして、候補者が美馬ひとりでないのだろう。

愛実は胸の中で呟き……。


「和威くんはどうだい? 食事中はいいムードだったんじゃない?」


暁の質問に、愛実は現実に引き戻された。


「そう、ですね、和威さんはとても誠実な方に見えました」

「だと思うよ。ただ彼は、女の子と付き合ったことがないって話だから、スマートじゃないかもしれないな。逆に藤臣くんはあのとおりの男だから……女性秘書にはほとんど手を付けてるし、邸のメイドも何人か……週刊誌には、東部デパートのイメージモデルが本命とか書かれてるけど、どうかな? まあ、君しだいだよ。苦労するとわかってても、惚れたらどうしようもないからね」


暁の言葉は、恋に落ちそうな愛実の心に冷水を浴びせかけたのである。

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