十八歳の花嫁
☆ ☆ ☆


アパートの前に愛実を降ろし、暁は彼女が部屋に入るのを見届けた。

ベンツの車内、後部座席でひとりになった彼は内ポケットから煙草を取り出し、火を点ける。と、同時に、携帯電話が鳴り始めた。


『――はい』


電話の相手は暁から愛実の様子を探り出そうと必死だ。
それもそのはず、美馬の名に一番相応しくない男に、美馬家の財産を持って行かれそうなのだから。必死にもなろうと言うものだ。


『わかってますよ。協力すると言ってるじゃないですか。――こっちの件もよろしく頼みますよ』


暁は愛実と話すときに比べて五割ほど声のトーンが落ちている。
そのまま電話を切り、ポケットに仕舞った。

落ちぶれ果てた旧伯爵家のご令嬢と聞き、どれだけ世間知らずのお姫様が来るのかと思いきや……。
予想外にもしっかりした、観察力のある娘だった。
たったあれだけの時間で、藤臣を取り巻く空気に気づいたのだから大したものだ。


(いや、恋の成せる技ってヤツか)


藤臣に関することで嘘は言っていない。
しっかりしてはいるが、男関係は不慣れと見える。ほんのわずか暁の身体が触れただけで、愛実の全身に緊張が走った。ああいう反応をされると、構いたくなるのが男と言うものだ。

暁は煙を吐き出しながら軽く首を振った。
思わず、苦笑いが浮かぶ。

今回ばかりは簡単に手を出すわけにはいかない。
できる限り慎重に、愛実にとって味方でいなければ意味がないのだ。相続人が愛実である以上、上手くやれば暁にもチャンスはある。


(全部奪い取って、追い出してやれたら爽快だろうな)


苦労したとはいえ藤臣も和威も、所詮は亡くなった美馬一志の血縁だ。
唐突に人生に入り込み、振り回され続けた暁とはわけが違う。

現時点では、藤臣が一歩リードだろう。手慣れた分だけさすがに上手くやったな、というのが正直な感想だ。
だが、勝負はまだまだこれから……。

暁の胸にほんのわずか愛実に対する同情が芽生えた。
だが、獲物に同情するくらいなら、狩りそのものを断念したほうがいい。

――彼は思い直し、再び携帯電話を取り出した。


『……ああ、和威くんか? 大川です。そう、ちゃんと送り届けましたよ。それで、彼女のことなんだけど……』


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