双子の御曹司

忙しかったゴールデンウィークが終わると、水物が入ってくる。
水物とはビニールプールや水鉄砲の事。

その為、売り場レイアウトの変更をしなくてはいけない。
お客様に迷惑の掛からないように、比較的お客様の少ない平日の午前中に什器移動の作業する。
什器には車が付いているから、大きなものでも一人で動かせるが、重労働なのは確かだ。何よりお客様に怪我をさせない様に注意が必要で、お客様がいない方が動かせやすい。
その為、今日は開店時間の2時間前に出勤していた。

生鮮売り場は既に出勤しているが、衣住関売り場は、まだ誰もいない。出勤してるのは私だけだ。
薄暗い3階フロワーの玩具売り場だけが、電気が付いている。

売れ場でレイアウトの確認をしていると開店前の売り場の見回りをしていた副店長が、声を掛けてくれた。

「遥? 早いな?」

「あっおはようございます。」

私の持っているレイアウト図を奪うと「水物か?」と、レイアウトを確認してくれる。

「はい! 今日から変更します。」

「水鉄砲の入荷状況の確認は怠るなよ? 商品部には早めにフォローしてもらえ!」

副店長も玩具上がりの人で、商品部時代はやり手で取引先からも、鬼の伊月と呼ばれ、有名だったらしい。

「はい!」

「ところで遥、お前、いま付き合ってる奴いないよな!?」

「なんでそこ断定なんですか?」

「居るのか?」

意地悪な顔で聞いてくる副店長。

「いませんけど…」

口を尖らせて答える私を見て、副店長は口角を上げてニヤと笑う。

うわーこの顔むかつく!!!

「来週の水曜日休みだろ? 見合いしないか?」

「はぁー?」

副店長は、驚く私に構うことなく、話を進めてくる。

「お前の両親にも話はしてある。『よろしく頼む』と言われたよ? 来週の水曜日11時にクレラントホテルのロビーな!? うちの奴も楽しみにしてるから、絶対すっぽかすなよ!?」

「えっ瞳さんも?」

「あぁ、お前に着物用意するって言ってたぞ?」

「それって、マジなお見合いじゃないですか!?」

伊月副店長の奥さんは、体が弱く子供が出来なかったらしい。

だから私を、自分の子供のように、夫婦で可愛がってくれている。

「俺もお前を抱いた最初の男としては、お前の幸せを願ってるんだよ?」




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