双子の御曹司
佐野さんが出勤してからは、水物商品を品出しして、ビニールプールに空気を入れ、天井から吊るす。
何とか、午前中に売り場を作る事が出来た。
はぁ…
何とかおわったよ…
佐野さんのお昼休憩の前に、麗華ちゃんと2人で少し休憩を取る事にして、バックヤードすみの自販機まで行く。
「なんとか終わりましたね?」
「うん、有難う。麗華ちゃんのお陰だよ?」
麗華ちゃんは、今日早番ではあったが、いつもより早めに出勤してくれた。
昨日、私が売場変更のために、レイアウト図を引いていたから、気をきかせて早めに、出て来てくれたのだ。
「ミルクティーで良い?」と麗華ちゃんの好きなミルクティーを買い手渡す。
「有り難うございます。」
私は、隣の自販機のコーヒーのボタンを押す。
缶ではなく1杯1杯ドリップして出てくるやつだ。
自販機ながらクオリティの高い、コーヒーの香りを楽しんで、カップに口を付ける。
ん~良い香り。
「遥さん、お見合いするんですか?」
「ぶっあっちぃ!!」
突然の麗華ちゃんの言葉に驚き、コーヒーを吹き出してしまった。
麗華ちゃんは「大丈夫ですか?」とポーチからティッシュを出し、差し出してくれた。
私は「ありがとう」と受け取って口元を拭き、制服のブラウスが汚れて無いことにホッとする。
「聞いてたんだ?」
「副店長と話してるのが聞こえちゃって…すいません…。」
麗華ちゃんは立ち聞きした事が、悪いと思った様だ。
「アハハ…謝らなくてもいいよ? なかなか男の人も寄って来ないし、色気のない私には、見合いじゃないと、相手見つけられないかな?」と苦笑する。
「えーそんなこと無いですよ! 遥さん結構人気あるんですよ? メンズカジュアル担当の木下さん、遥さんに気があるらしいですよ? それにテナントの人の中にも狙ってる人居ますもん!」
「うっそ?」
初めて聞く話しのうえ、まさか自分がモテるなんて思ってもいなかった私は、麗華ちゃんの言葉に驚き、少し嬉しくなる。
へぇー私も捨てたもんじゃないのか?
「私、合コンのセッティング頼まれた事、何度もありますよ?」
「えーそうなの?」
「でも…副店長から、遥さんを合コンに誘うな!って言われてて…てっきり…」
麗華ちゃんは言いにくそうに話を続ける。
「遥さんと副店長の…噂…本当なのかな?って思ってて…」
私は深いため息を吐いて「あのクソおやじ!!」と飲み干した紙カップを握りつぶす。
「でも違ったんですね?」と、麗華ちゃんは表情を変えた。
「当たり前じゃん! あんな鬼瓦みたいなオヤジ、誰が相手にするか!?」
私の言葉に麗華ちゃんは、爆笑をする。
「まぁ昔から、世話になってる副店長からの話だから、会うだけあってみるわ!」
「優良物件だと良いですね?」と麗華ちゃんが微笑む。
「でも麗華ちゃんこの話は内緒ね?」
「了解です!」
麗華ちゃんは、右手を額に当て、敬礼をしてみせた。
そして私達は笑って売り場に戻って行く。