優しい胸に抱かれて
 緊迫した現場に笑い声が包まれる。

「あ、ロリコンだったな?」

「それは佐々木さんじゃないですか?」

「俺は工藤と違ってロリコンじゃない」

「なっ。俺だってロリコンじゃないですって」

「へ? 俺はてっきりロリコンなんだと思っていた」

「いや、違うって言いましたよ、俺」

「そうだっけ? だって、これだぞ」

「うーん。…否めない感はあるかも」

「ほらな」

 2人は以前よく言い合っていたやり取りを交わす。これって、雑に指をさされて、顎に手を当て否めないって。ほらな、じゃない。


 普段、パソコンの前でお互い息抜きがてら和気藹々と無駄話をするが、会社と現場の雰囲気の相違なのだろうか、会社で見せる姿よりずっと生き生きとしている。

「みんな元気そうですね」

「お前もな。出向、大変だっただろ?」

「まあ、それなりに…」

 一課のみんなも様子を見に上がってきて、会社での人だかり以上に輪ができていた。これは何のイベントなのだろうか。

「ここじゃ、搬入の邪魔になるから休憩にするか」

 なんて言い出し、搬入会社に作業を任せると、どうみても邪魔しにきた芸能人とその取り巻きたちはぞろぞろと移動し始めた。


「…あ、こんなところに工具置いて。壁に傷ついたらどうするの」

 独り言をぼやきながら置いてきぼりをくらった私は、ほったらかしにされた仕事道具を片づける。


「紗希ー、置いてくぞ」

 置いていかれたと思っていたところに、私を呼ぶ声。

 声がした方を向けば、階段の踊り場で手招きする彼がいた。一度手に取った道具を邪魔にならない場所へ移し、遠くで待っている姿を追いかけた。
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