優しい胸に抱かれて
「墨出し、手伝いますよ」

 佐々木さんの助手を買って出た。

 レーザーという水平の光の線を映し出す器機と、壁とを行ったり来たり、佐々木さんは一人で作業をしていた。光線に合わせて線を引っ張り墨出ししていく。ここには線の通りに陳列棚が並ぶ予定。

 それから、すでに施工が終わった店舗の傷や汚れのチェック、商品に付いている保護ビニールを剥がしたり、さすがに重量物は扱えないので、僅かでも足しになればと簡単な仕事を手伝った。

 什器のラックの搬入が始まり施工の手が一旦止まる。いよいよ私の出る幕ではなくなってきて、佐々木さんが声を掛けてきた。
 
「それで、お前はどうやって来たんだ?」

「工藤さんとです」

「あいつら、今日からだったか」

 出張組もあの二人が今日から出社だってことを知っていた。

「で、工藤はどうした?…おお、工藤!」

 佐々木さんの一言に、その場にいた全員が振り返る。

「…は?」

 一斉に注目の的となった本人は、怪訝そうに歩み寄ってくる。みんなの顔を見回し、頭を傾けた。

「お疲れ様、です…。ああ、もしかして、悪口言われてた?」

「バレたか。あいつどんな手を使って一課長代理になったんだって、本部長に体でも差し出しだしたんじゃないかって話してたんだ」

「…そいつはキモいですね、佐々木さん。どっちかっていうと俺はノーマルなんですけどね?」
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