優しい胸に抱かれて
 車の中でうつらうつらと、15分も寝てしまったからか、なかなか寝付けず睡眠不足に陥った。次の日。

 眠い目を無理っくり開け出社した私を、何やら怖い顔をした上司がフロアの入り口で待ち構えていた。

「おはようございます…?」

「おはようございます、じゃないだろ! 昨日、何で連絡しなかったんだ! 何かあったら携帯鳴らせと言っただろ!」

 昨日、島野さんは接待にお呼ばれだったから連絡を控えたわけで。旭川へ行ったことを誰かから聞いたのか、連絡をしなかったことでいつもは怒らない島野さんが、もの凄い剣幕で見下ろしている。


 何故かその隣には、面倒臭そうな顔をした日下さんも突っ立っていた。

「すみませんでした…」

「てめえは、ほうれんそうもできないのか。俺は課長になるんだぞ。旭川なら日下に行かせただろ」

 ちらりと日下さんを見ると、ポケットに両手を突っ込んで変わらず不機嫌そうな面持ちでそこにいた。

「報告、連絡、相談がなってないぞ」


「すみませんでした」

「何でも謝ればいいと思いやがって。お前は一人じゃないんだ。一人で頑張るのはいいが、もっと俺らを頼れ」

「…はい、分かりました。ところで、…誰から聞いたんですか?」

 相手は怒こっているのだが、どういうわけか緊迫感がなさ過ぎて不躾な質問を投げ掛けた。

「工藤だよ」

「え…?」

 島野さんの口からぶっきらぼうに飛び出た名前に、重たかった瞼がこれでもかと開いて目が冷める。


 名前を聞いただけで、心が反応する。


「あんたは部下に夜中まで仕事させるのか。二課はいつから部下の管理が出来ない課に成り下がったんだ。ってな、深夜に非常識な電話があった」

 島野さんは手で電話の形を作り耳に当てると、眼鏡の奥で思い切り不機嫌な瞳を振りかざす。
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