優しい胸に抱かれて
「…要するに、逃げてきたんだな」

 むくっと上体を起こした日下さんは、まだ瞼を平たくさせていた。

「人聞き悪いな、パパは仕事という敵をやっつけに行ってくると…」

「騙して逃げてきたんだろって」

 島野さんは「最後まで言わせろよ」なんて言いながらも楽しそう。

「知ってるか? 昔は5人だった戦隊ヒーローは今は6人もいるんだぞ」

「…知らねぇよ、そんなの」

「へえ、6人もいるんですか? 今も色で分けられてるんですか?」

「お前は何に食いついてんだよ…。眠っ…」

「カラーは確か…」

 立ち上がって体を軽く伸ばし、欠伸をする日下さんを無視して何とかレンジャーの話で盛り上がろうとする島野さんに、日下さんの白い目が向けられた。

「黒、赤、青、緑、黄色、桃色、白だ」

「…え? 一人多いじゃないですか?」

「ん? おかしいな…。黒、赤、青、緑、紫、黄色、桃色、白…。いや、おかしいな。黒、赤だろ…」

 と、指を折って数えていく。口にするカラーと曲げた指の数が合っていない。

「パパがわかってねぇんじゃねぇかよ…」

「え、8人なんですか?」

「どっちでもいいし…。お前はさっきから何に食いついてんだよ。って、電話でいちいち聞くことかって」

 欠伸が止まらない日下さんは瞳を半分開けて、奥さんへ電話をかけ始めた島野さんに変わらず冷ややかな視線を送り、その島野さんは最後、ぶっきらぼうに電話を切って、決まりが悪そうに口を動かす。

「…ストーリーの途中から増えてくらしいな」

「じゃあ、6人でも7人でもないってことですか?」

「面倒だから10人にしとけ」

 日下さんはどうでもいいと言わんばかりに、徐にこの場から立ち去った。

「だから島野さん、色彩感覚ないんですね。やっと解りました」

「納得するな。てめえは、朝から喧嘩売ってんのか?」

「喧嘩売ってるつもりはないんですけど…」
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