優しい胸に抱かれて
 同じ会社にいながら、接点がないと見聞きしたことない人で溢れていて、感慨深くなる。からかいたくなるくらい困った顔をしていたのだろう。思ったことが口から出てしまい、注意され紙面に意識を戻す。


 納品日を変更されたドア枠の発注処理からログを辿った結果、謎の携帯番号の持ち主と一致した。更に、旭川の部品発注漏れの件は、消失した手配の記録が浮き彫りになり同一の、見覚えのない氏名が紙面上に記されている。日下さんの読みは的中した。

 上の承認済前であれば、受発注手配完了していても削除ができなかったことに出来る。興味深げに上半身が前にのめりこむ。


「…見た目は手配済み、受注は完了しているから経理上何の問題なく、入出金が行われ会計処理終了。誰でも削除できる権限があるからミスを隠蔽する。よく使われる手段なのよね」

「そんなことができるの、知らなかった」

「知らなくていいんじゃない? 店舗さんは外注が多いでしょ、商品部くらいなのよね。製品多いし、製品番号は似たり寄ったり。商品部の発注漏れは査定に大幅に響くわけ。それで隠したのかどうか別として、バレバレ。間違うことだってあるでしょ? だからって、隠しちゃ駄目よね。それを見て見ぬふりしてる組織にうんざり、馬鹿みたい」

「うん。ミスはミスで認めなきゃ改善しない」


「それで…、これ。部品の発注は什器の発注日の翌日、この時間で間違いない。忘れて追加発注したみたいね。システムから抹消したのが受注完了後。什器側の手配に入れ込んで追加記録されてたのが同日。こんなとこかな、これでいい?」

「うん。バッチリ、ありがとう」

「でも、これがなんだっていうの? 事件?」

「うん、ちょっと…。調べてもらっておいて、ごめん」

「ま、いいけど。高くつくわよ、ビーフシチュー5回分かな?」

「それで、いいの?」

「じゃ、店舗さんの人数分。毎日奢ってもらおうかな」

「みんなに言っておくね、ありがとう」
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